コラム
第22回 2022年から特許公報が変わる
~「再公表」は公報じゃないから廃止!?~
特許情報の一次情報として基本になるものは、特許公報である。「特許公報」は、特許権の設定登録時に発行される公報のみならず、特許出願から1年半後に出願内容が公開される公報などを含む、特許庁が法律に基づいて発行する公報の総称である(特許法第64条、第66条等)。
知財業界では、「特許公報」が「特許」になった内容を掲載する公報と勘違いされることを避けるため、公報発行タイミングによって、「公開系公報」、「登録公報」と表現を使い分けることがある。
更に、公開系公報には、日本国内出願の内容が掲載される通称「公開公報」と、外国での国際出願を経由して日本国内に入ってくる内容の日本語訳が掲載される「国内公表」とがある(特許法第184条の9)。
では、日本での国際出願はどうなるのか? 換言すると、日本企業が日本を含め権利化を目的とし国際出願すると公報はどうなるのか?
日本語による国際出願は世界知的所有権機関(WIPO)で国際公開され、その情報は、通称「再公表」として特許庁が情報提供している。ここで留意したいのは、「再公表」は公報ではないことである。つまり、特許法上、特許庁は情報提供する義務がないのである。
現時点で大きな騒ぎにはなっていないが、2022年から特許庁は特許公報を刷新し、これを機に「再公表」の提供を停止するので気を付けてほしい
(https://www.jpo.go.jp/system/laws/koho/oshirase/system-sasshin20201222.html)。
日本への特許出願ルートとその情報開示
日本で特許を取得するためには、日本の特許審査を受けなければならない。その出願ルートは3つに大別できる(下表参照)。
日本で特許になる可能性のある出願の国内開示手段
注意:表は、典型的なケースを示したものである。日本企業が外国語で出願することや、外国企業が日本語で出願することもある。
外国語で直接出願した後、翻訳を提出する外国語書面出願制度もある(特許法第36条の2)。
1つ目は、国内に直接出願する方法で、主に日本企業が日本語で出願するケースである。この内容は原則として出願から1年半後に公開公報で開示される。
2つ目は、国際出願を使う方法である。多数の国で特許を取得する際に便利な特許協力条約(PCT)に基づく制度である。日本企業であれば、日本語で出願し権利化を目指す国で翻訳文を提出するなどの手続きをとる。日本語で国際出願をすれば日本での権利化に翻訳は不要である。この内容は再公表として日本特許庁により情報提供されてきた。
外国企業であれば、自国で母国語による国際出願をした後、日本での権利化のために日本語訳を提出する。国際出願は出願言語で国際公開され、日本に提出された日本語訳は、国内公表として情報開示される。
3つ目は、パリ条約に基づく優先権を使う方法で、外国企業が自国で出願した内容を日本語に翻訳して日本に出願するケースである。この内容は外国での出願日から起算して1年半後に公開公報で開示されることになっているが、実際には数カ月遅れる。
再公表廃止で約8%の情報が抜け落ちる
現在、最初から日本語で出願された国際出願は、国際公開された後に「再公表」として日本特許庁が情報提供している。「再」の文字は、国際公開したものを再度日本で公表し情報提供するために付いたものと思われる。冒頭でも記載した通り、「再公表」は公報ではない。日本語で国際公開されているから、そちらを直接見れば済むでしょ、という趣旨であろう。
特許庁の統計データによれば、2020年に発行された公開公報は205,747件、国内公表は37,866件、再公表は21,074件であり、再公表の占める割合は7.96%である。つまり、約8%の情報提供が2022年から廃止されるのである。網羅性がなくなる影響は大きい。しかも日本企業が国際出願をしているからには、それなりに重要な出願のはずで、その情報が抜け落ちるのである。
再公表が抜ける、ということは国内のライバル会社の国際出願の情報が抜けることになる。これを逆手にとった知財戦略の一つとして、相手に出願内容を察知されないよう国際出願ルートで国内に出願するケースが増えるかもしれない。
もちろん、国際出願をきちんとウォッチすればよいのであるが、知財業界(特許情報ユーザ側)で騒ぎになっていないのが不思議である。
民間事業者の腕の見せ所
これまで、再公表は、特許庁が公開系公報とフォーマットを揃えて情報提供してきた。知財情報サービスを提供している民間事業者にとっては、公開公報や国内公表のデータと同様に扱うことができた。
ユーザからは、2022年以降も今まで通り、再公表に相当する情報を含めて網羅的に検索・表示できることが期待される。それに応えるには、国際公開された日本語の情報を、他の公開系公報とフォーマットを揃えて再公表の時と同様にデータ収録する必要がある。再公表廃止への対応は、民間事業者の腕の見せ所になる。
ところで、再公表には、公開公報に比べて情報開示の時期が遅いという課題があった。国際公開の後速やかに発行されることが期待されていた。以前より弊社では、この課題・ニーズに対応すべく、日本特許庁の再公表の提供を待たずに先回りして国際公開の情報を収録し、他の公開系公報と合わせて網羅的に検索・表示できる「再公表早期サービス」を展開している
(https://www.patent.ne.jp/service/patent/search.html)。
つまり、弊社の特許情報サービスでは、再公表廃止の影響を直接受けることはない。
高野誠司