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グリーン水素の特許分析

今回は、脱炭素社会を実現するためのキーテクノロジーといわれている、「グリーン水素」についての特許分析を行いたいと思います。
まず「グリーン水素」とは、いったい何なのでしょうか。
水素は無色ですが、水素の製造方法によって便宜的に色分けする考え方が欧米から提唱され、それが日本にも広まってきたようです。
"The National Hydrogen Strategy"(ドイツ政府)という資料に、用語集として色分け水素の定義が記載されています。
色には、グレー、ブルー、グリーン、ターコイズ等があります。

  • グレー水素
     主に天然ガスの水蒸気改質によって生成されます。水素を生成する際にかなりのCO2排出が伴います。
  • ブルー水素
    炭素回収貯蔵システム(CCS)等を使用して、グレー水素生成の際に排出されたCO2を回収しながら生成される水素です。これは、水素を作る過程で発生するCO2が大気中に出ないことを意味し、プラスマイナスゼロという意味でカーボンニュートラルとみなすことができます。
  • グリーン水素
    再生可能エネルギーを用いて、水素を生成します。例えば太陽光発電で作られた電気で水を電気分解して水素を作ります。水素の生成の過程でまったく炭素を排出しないため、もっともクリーンな水素といえます。
  • ターコイズ水素
    直接熱分解方式でメタンから水素を生成します。副産物の炭素はCO2ではなく固体として生成されるため、大気に放出されず、ゼロカーボンとみなすことができます。「ターコイズ」は緑がかった青色で、「グリーン水素」と「ブルー水素」の中間の意味合いです。

このように、ゼロカーボンで生成できるグリーン水素はとても理想的ですが、特許の世界ではどのような状況になっているのでしょうか。さっそく見ていきたいと思います。なお今回の調査では、特許データベースは、サイバーパテント株式会社の"CyberPatentDesk"を使用しています。
グリーン水素は「再生可能エネルギー由来の電力」と「水の電気分解」という2つの技術要素を用いて生成されます。「再生可能エネルギー由来の電力」については、太陽光発電や風力発電などが想定されますが、これらの技術は旧来より研究開発されているものであるため、本稿では「水の電気分解」について注目したいと思います。

特許分析を行う際には、まず分析対象の特許集団を作成します。対象はグローバルとし、期間は直近の技術を見たいということもあり2010年以降とします。次に、検索式を構成するキーワードや特許分類を決めてきます。今回は、"化合物または非金属の製造のための電気分解または電気泳動方法;そのための装置"という、ちょうどいい特許分類がありましたので、この下位レベルの特許分類のうち最適なものの組み合わせと、発明のタイトルに「hydrogen」が入っているものを掛け合わせた集合としました。結果は公報単位で6837件となりました。
次に、分析結果を見ていきたいと思います。

特許分析SDGs


とてもきれいな右肩上がりのグラフですね。こんなにきれいに増加するグラフは、なかなか見たことがありません。なお、出願年が2021年、2022年の件数は、公報が出そろっていないため、参考値となります。
次は、公報発行国です。

特許分析SDGs発行国

中国(CN)における公報発行件数がトップです。2位以下は、日本(JP)、アメリカ(US)、国際事務局(WO)、韓国(KR)、欧州(EP)、インド(IN)、ドイツ(DE)、カナダ(CA)、オーストラリア(AU)と続きます。アメリカやヨーロッパより、日本のほうが多いことが分かります。さらに、公報発行国の件数を出願年毎に分解したバブルチャートを見てみましょう。


特許分析SDGs発行国

中国(CN)は、近年増加傾向にあり2021年がもっとも件数が多い状況です。日本(JP)は、2018年がピークで、それ以降は減少傾向です。アメリカ(US)、欧州(EP)は2019年がピークとなっています。
次に、出願件数TOP10の出願人について見てみます。ただし、本稿では仮称(企業の国籍のみ表示)とします。

特許分析SDGs出願人TOP10

ここでは、日本の企業2社が上位1位と2位でした。3位が中国の企業、4位が日本の企業となります。日本の特定の企業が集中して出願していることが推測されます。
さらに出願年毎に分解したバブルチャートを表示します。

特許分析SDGs出願人バブルチャートTOP10

日本のA企業は、2017年から件数が増加し2019年がピークとなり、2020年以降も出願を継続しています。日本のB企業は2015年が多くそれ以降は減少傾向です。中国のC企業は2021年から一気に増加しています。

最後に、A社、B社、C社について、独立請求項と要約の記載の中の特徴語を抽出してみました。(特徴語は、TF-IDFの手法を用いています。)

特許分析SDGsTFIDF


それぞれに特徴的なキーワードが出てきて面白い結果になりました。A社は、「高分子型水電解装置」に関連の深い、"anode","cathode","membrane"などが上位にきています。"semiconductor"は、カソード電極やアノード電極として機能する半導体電極となります。
B社は、"cell","steam","temperature","SOEC"などのキーワードから、「固体酸化物形電解セル(SOEC)」に特徴があることが分かります。固体酸化物電解セルは最も高温で作動する電気化学セルで、高効率で水蒸気の電気分解が可能な技術です。
C社は、"molybdenum(モリブデン)"というキーワードが特徴的です。電解反応を促進させるための触媒として使用されるようです。また、C社は"alkali"というキーワードも見られますので、"アルカリ型水電解装置"についての特許も出願しているようです。

そろそろ長くなってきましたので、本稿の分析はこの辺りまでとさせていただきますが、他にも特徴語を年代ごとに推移させてみたり、D社以降の特徴語も見てみたりと、興味は尽きませんね。
それでは、最後までご覧くださり、ありがとうございました。

弁理士法人シンシア・レター 福嶋 久美子

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