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特許検索式の作り方&特許分析の初めの一歩
~サステイナブルな未来志向フード「代替肉」の特許分析~
今回は、サステイナブルな未来志向フードとして注目を集めている、いわゆる「代替肉」について、マクロ視点からの特許分析を行いたいと思います。
食糧農業機関(FAO))の発表によりますと、世界の家畜からのGHG(温室効果ガス)の排出量は、総GHG排出量の14.5%を占めており、畜産業は環境負荷がとても高いといわれています。
また、今後予測される世界人口の増加や、動物福祉に関する課題を解決するためにも、動物性タンパクに代わるタンパク源として、「代替肉」がとても注目されています。
皆様は、「代替肉」といいますと、どのような印象をお持ちでしょうか。
すでによく知っているよ、というかたもいらっしゃるかと思いますが、私などは昔ながらの「大豆ミート」くらいしか思い浮かびませんでした。
しかし、少しWebを検索するだけでも、本物のお肉料理と見間違えるような見た目を持つ、数多くの情報が出てきます。技術革新にとても期待が持てそうです。
さて、現在はどのような新しい技術が特許出願されているのでしょうか。さっそく見ていきたいと思います。
なお今回の調査では、特許データベースは、"CyberPatentDesk"を、特許分析ツールは"CyberPatent Deskテキストマイニング"を利用しています。
特許分析を行う際には、まず、分析対象の特許集団を作成します。
対象国は、グローバルな傾向も見たいと思いますので、日本、米国、欧州、中国とします。
期間は2000年以降とします。
次に検索式を構成するキーワードや特許分類を決めていきます。
今回は、自身にあまり知見のない分野ですので、Webで検索した著名な企業名でまずは検索し、そこからキーワードや特許分類を拾い再度検索し、という地道な作業で検索式を構築していきます。
サイバーパテントデスクは、複数の検索式の結果を差分で見ることが容易にできますので、1つのキーワードを追加する前後でどのように結果が変わるのかを見ながら、なるべくノイズを含まないように調整していきます。
数十回程度この作業を繰り返し、おおよそ納得のいく結果が出てきたら、いったんこの作業は終了となります。
海外検索のFULLオプションの検索式は、以下のようになりました。
[1]発明の名称+要約+クレーム:”vegan meat”+ ”fake meat”+ ”meat like food”+ ”slaughter free meat”
[2]発明の名称+要約+クレーム:meat* ($substitute+ $analog+ $replica)W1
[3]発明の名称+要約+クレーム:meat* (”plant based”+ ”vegetable based”+ $algae)W1
[4]発明の名称+要約+クレーム:meat* ($culture+ ”cell based”+ ”cell sheet”+ ”cell derived”+ ”cellular biomass”+ ”cell biomass”+ ”cell culture”)W1
[5]発明の名称+要約+クレーム:meat* ($ferment+ $enzym)W1
[6]IPC(最新+公報):A23
[7]CPC(最新+公報):A23
[8]IPC(最新+公報):A23J__3/
[9]CPC(最新+公報):A23J__3/
[10]発明の名称+要約+クレーム:meat
[11]出願日:2000:
[12]公報発行国コード:JP+ US+ EP+ CN
[13]発明の名称:pet+ insect
[20]論理式:((1+ 2+ 3+ 4+ 5)* (6+ 7)+ (8+ 9)* 10)* 11* 12*# 13
検索結果をテキストマイニングに取り込むためには、検索結果をCSVでダウンロードし、外部データとしてツールに取り込みました。
次に、分析結果を見ていきたいと思います。
検索結果件数ですが、公報発行単位で2053件でした。
各国の公報発行件数をグラフにしますと図1のようになります。中国がトップで931件、アメリカ、日本、欧州と続きます。
図1
年ごとの出願件数の推移をグラフにしますと図2のようになります。きれいな右肩上がりのグラフですね(2021年と2022年は、公報が出そろっていないため、参考値としてください)。最近の注目の高さが、如実に反映されています。
図2
出願件数推移を、国別に分解してみました。図3になります。各国とも出願件数は増加傾向ですが、特に2020年の出願件数を押し上げているのは、中国ということが分かります。
図3
出願件数が多い出願人を上位20社まで図4のグラフで示します。1位はオーストラリアのSOLAE、2位はスイスのNESTLE、3位は日本のFUJI OIL(不二製油)です。中国の出願人は意外と少なく、5位のJIANGNAN UNIVERSITY(江南大学)が1番上位です。この結果から、中国の件数を押し上げているのは、中国以外の企業からの出願ということも推測できます。
図4
出願年毎の上位出願人の出願件数を図5のマトリックスマップで示します。1位のSOLAEは2011年以降はほとんど出願していないことが分かります。いっぽう、2位のNESTLEは、2000年から継続して出願しており、2019年、2020年には出願件数が増加していることが分かります。3位の不二製油は、2000年以降コンスタントに出願しています。というのももっともで、不二製油は半世紀以上前から、大豆をベースとした代替肉の開発を手掛けられている老舗です。4位のIMPOSSIBLE FOODSは、2012年以降の出願が目立ちますが、調べてみますと2011年設立の会社でした。アメリカでは、"Impossible Burger"という代替肉のハンバーガーが有名な、勢いのある会社です。
図5
次に、代替肉の製造にかかわる技術要素について、分類してみたいと思います。「植物代替」は大豆やエンドウ豆等の植物を原料として肉様の食品を製造する方法です。すでに確立された技術で、現在出回っている製品の多くは大豆ベースとなります。「精密発酵」は、微生物を用いて特定のタンパク質や酵素を生成する方法です。主に、代替肉を美味しく感じさせるための副原料の位置づけです。「培養」は細胞を培養することで肉を再現することです。この技術はまだ普及しておらず、研究開発段階といえます。
各技術要素についての出願年代推移を図6に示します。図6では、各バブルの中を、さらに国別に示しています。
「植物代替」が最も多く「精密発酵」が続きます。双方近年も増加しており、国別の内訳は中国が一番多いです。「培養」は2016年以降増加しています。
図6
最後に、なじみのある日本企業である"不二製油"と"味の素"について、技術を概観する特徴マップを表示してみたいと思います。図7が不二製油です。"soybean", "potein"や"texture"などのキーワードが大きく表示されています。周辺のキーワードも併せますと、大豆ベースの代替肉を中心として、その質感に注力しているのではないかと推測されます。
図7
図8が味の素です。"transglutaminase", "enzyme"などのキーワードが目を引きます。周辺のキーワードも併せますと、植物ベースの代替肉を中心として、味の素の強みである調味料で風味や質感の向上に注力しているのではないかと推測されます。
図8
本稿で記載します「代替肉」の特許分析は以上となります。
「代替肉」の特許出願状況はこれからも活況が続くことが予想されますので、今後も引き続き注目していきたいと思います。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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