コラム
第21回 コロナ禍の知財業界への影響
~死んだはずの特許が大量に復活している?~
以前のコラムで、年金不納からの権利復活(第18回)と、審査請求期限徒過から回復(第17回)を扱ったが、コロナ禍で権利等が復活するケースが急増している。
弊社生死判定ロジックで権利等が「死」から「生」に覆る例は、2019年度は12件しかなかったが、2020年度は87件、2021年度は8月9日時点で既に98件と大量にある(下表参考)。
今更言うまでもないが、権利の復活や審査の回復は、救済される権利者・出願人にとっては喜ばしいことであっても、同業他社にとっては事業に影響を及ぼし大事に至ることもあり得る。
法が規定していない非可逆的な状態変化は、特許制度を不安定にし、ひいては安心して創造活動や知財保護活動ができなくなり、日本の国力を削ぐことになりかねない。
なぜコロナ禍が権利復活を生むのか
現在、特許庁は、新型コロナウイルス感染症により影響を受けた手続の取り扱いについて救済措置を設けている(https://www.jpo.go.jp/news/koho/info/covid19_tetsuzuki_eikyo.html)。
特許庁に確認したところ、「新型コロナウイルス感染症により影響を受けた場合における、救済に係る申請の手続については、当該影響を受けたとは考えにくいときを除き、当面の間、認めることとしているため、それらの事情は、権利の回復事案が増えている要因の一つと考えます。」とのコメントをいただいた。これまでの震災等の救済措置とは異なり、今回のコロナ禍の救済措置は性善説に則りハードルが低い判断がなされている印象を受ける。この方針自体は、歴史的な緊急事態であることに鑑み悪いことではない。
では、知財の現場で何が起きているのか、コロナ禍がどのような影響を与え、救済措置を必要としているのか、大手企業知財部の方から聞いた具体的な事案などを交え考察したい。
リモートワークに介在する「紙」が知財業界のボトルネックに
特許が共有に関わる場合、年金(特許更新料)納付時には共有者に意思確認をすることになるが、両者が依頼した特許事務所(特に片方の権利者が普段取引のない事務所の場合)からの連絡がFAXのことがある。単独の権利であれば、社内システムのワークフローを使って発明者所属部署に意思確認し、年金管理会社や年金納付を依頼する事務所と電子的に連絡することもできる。弊社が関係する事案では、共有相手の知財担当者が、会社からの要請によりリモートワークが原則で、数カ月に1回程度しか出社できずFAXに気がつくのが遅れたケースがあった。
一方、ある企業では、「異議申立は申立から3週間は代理人受任期間のため、出願人にも庁書面が到着する。対応について代理人との調整も必要となるため、郵便受け取りの出社は必須。」、「海外関連や譲渡関連の書面ではサインが必要。」とのことで、テレワークを何日も連続して行うことができない事情があるようだ。
ほかにもFAXや郵便など「紙」の介在が、知財業務におけるリモートワークでボトルネック(遅延原因)になるケースは多数ありそうだ。
もちろん、コロナ禍の観点では、担当者がウィルスに感染し、入院や隔離を余儀なくされた様な遅延理由もあるだろう。特許庁は「個別案件が如何なる申請内容の審査の結果、申請の認容がされたかについてはお答えできません。」とのことで、救済措置の申請理由の内訳はわからない。
知財業界全体でのデジタル化が求められる
特許庁、代理人事務所、企業知財部門、発明者所属部門などの間の連絡に「紙」が介在すると、テレワークの弊害が露呈する。共同出願などでは、更に別の企業知財部門、発明者所属部門、ときには大学が絡み、電子的な連絡が途絶えることが多い。また、年金管理会社や海外事務所が別にあると更にその可能性が増してくる。
特許庁がコロナ禍を機にデジタル社会への対応を見据え、特許庁関係手続における押印の見直し(https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/madoguchi/info/oin-minaoshi.html)を進めたことは高く評価できる。ただ、真のデジタル社会に昇華させるには、知財業界全体として「紙」の介在をなくしたいところである。そのためには、各関係組織のシステム間のプロトコル(通信の約束事)を標準化し、知財業界全体でデジタル化の推進が求められる。
高野誠司
<参考>2021年4月5日~8月9日に、弊社生死判定ロジックで「死」から「生」に覆った権利等98件(抜粋)
「CyberPatent Desk」で、生死情報(◎:権利存続中、◇:未審査・審査中、▼:登録後消滅、■:不登録確定)の検索や一覧表示が可能。
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